Step2 自動化へのアセスメント
アセスメント=計数予測とリスク管理
RPAを適用するか(=自動化を行うか)について、考慮すべきを大別すると、「計数予測」と「リスク管理」になります。この2つをあわせて、ここでは「アセスメント」と記載します。耳慣れない言葉かもしれませんが、平たく言えば「調査と予測に基づき、事前に影響を査定すること」となります。比較的よく聞く使い方ですと、大規模な建築工事や開発事業を行う際などに、周囲への環境や生態系などの調査を行う「環境アセスメント」などでしょうか。
さて、自動化の目的はコスト削減であって、自動化を行うことではありませんので、極々シンプルに、以下の点に留意する必要があります。
”効率化によってもたらされるコスト削減が、その効率化を行うためのコストに比べて大きい必要がある”
ごく当たり前のことですが、10,000円の利益をあげるために20,000円の経費を費やすことは、(それ以外の要素を加味しないなら)ただの無駄遣いです。
ですから、自動化を実行する際も、計画の段階で「棚卸しした個々の業務に対して、それを自動化した場合のコストと、それによって得られるメリット、そして発生しうるリスク」を考慮する必要があるのです。
次に、計数予測とリスク管理について、個別に述べます。
:計数予測
まず前提として、自動化を行うにあたって、棚卸しは業務単位で行いますが、その業務の全てを自動化するか、自動化を全くしないか、という2択ではないことに注意してください。棚卸しはあくまで業務の目的と、それに付随する作業の流れ(フロー)の妥当性をチェックしやすい粒度だからであって、その業務の全てを自動化するのが正しいとは限りません。
たとえば、数値計算は全て自動化するけれども、最終的なチェックは管理職が手で行う、といったケースも考えられます。これを最終的なチェックまで自動化しようとすると、そのための判断基準や方式の策定に手間取ったり、見落としが発生するリスクを抱え込むことになるからです。
また、企業によっても内部的な予算管理や評価の方法はあるでしょうから、ここに記載する考え方はあくまで一例であり、必要に応じて企業ごとの事情を加味して行ってください。
(たとえば、慢性的に残業が問題になっているのであれば、見た目の利益的には±0ぐらいでも、社員の残業時間を削減し、ワークライフバランスの向上が見込める、といった可能性はあります)
単純な例を挙げるなら、経理処理を自動化することは容易ですが、いままで人が行っていた際には弾かれていたであろう内容が通ってしまう可能性も出てきます。会社のルールで「文房具などは1,000円までは稟議なしで可」としていたとしても、「ボールペンの芯を1本1,000円で買いました」という経費申請は人間が手で処理していれば「何かおかしい」と気がつける可能性がありますが、コンピューターはそういった点を考慮してくれないからです。
つまり、いままでは「常識」とか「事務員の個別の判断」で行われていて、マニュアルになかった点が露見する可能性を想定すると、「完全に自動化する」というのはそれはそれで危険なこともあるからです。
もちろん、金銭的・安全面での問題が発生しにくい作業であれば、完全に自動化するのも良いでしょう。詳しくはリスクに関する項目に記載します。
さて。
少しシビアな記載になりますが、企業が人を雇用するには、相応のコストがかかっています。
会社の規模にもよりますが、一般的な雇用コストは、間接費用もあわせると給与支給額の1.5倍前後だと思います。
モデルケースとして、月の支給額(各種手当や交通費込み)で240,000円の事務員さんを想定してみます。
雇用コストは360,000円、1日8時間×20日勤務であれば、1時間あたりの労働コストは2,250円と計算できます。(この場合、額面上の給与での時給は1,500円ですね)
さて、その人が毎日、2時間かけて行う事務作業があったとしましょう。時間あたりの労働コストを見てしまえば、その作業のコストも容易に見積もれます。
つまり、
・月あたり:2,250円×2時間×20日=90,000円
・年間:90,000円×12=1,080,000円
年間に直すと結構な金額です。つまり、その作業を完全に自動化すると、約100万円分のコスト削減が見込めるわけです。
(前述のように、1つの作業を「すべて」自動化するとは限りませんので、たとえば「手作業が半分ぐらいになる」のであれば、上記の数値に0.5を掛ければコストは計算できますね)
ここまでが労働コストの話になります。
もう1つ考慮すべき要素は、「自動化のためのコスト」です。
主なコストは3つ考えられます。
・自動化の検討や作業を行う人的コスト
・コンピューター等のハードウェアや、自動化ソフトウェアの購入のコスト
・業務の変更が生じた際に発生する変更のコスト
1番目の人的コストは、まさに上記の作業コストと同等の考え方で見積もれます。但し自動化の設定を行うには相応の慣れが必要で、それが完成するまでの時間はかかりますから、慣れないうちはある程度の余裕が必要でしょう。
2番目の購入コストは、実は綿密に「自動化する範囲」に関わります。一般的に言えば、高性能なソフトウェアのほうがコストがかかります。ですので、自動化の範囲を広げようとすると、高性能なソフトウェアの導入を検討することになり、その分コストも上がる可能性が出てくるわけです。
1つの提案として、ここは「1種類の方式」に絞るよりも、自動化の範囲とコスト・ソフトウェアの組み合わせを幾つか用意して見積もり、その上で「主要な複数の業務に対する判断が終わってから」どのソフトウェアを選定するのか検討する、といった方法論も考えられます。
3つめの変更コストは、実作業にかかりそうな時間の見積もり×変更が発生する頻度で考えると良いでしょう。何年も作業内容が変更されていない作業で、それが必要であれば「変更頻度は殆どない」と想定できますし、定期的な見直しが入るのであれば、そのたびに作業が発生しうるからです。
ここまでで出てきた「導入のためのコスト」と、「それによって軽減できる労働コスト」は、導入するにあたっての重要な指標になります。
:リスクマネージメント
リスクと書くとネガティブな印象が出てくるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
むしろ「リスクを想定し、分析し、対処を行う」ことで、リスクに対して前向きに捉えられるようになるからです。
また、リスクを無視して業務計画を策定すれば、何かトラブルが発生した際に大きな悪影響を受けるのは言うまでもありません。
リスクの管理は、次の順番で行うと良いでしょう。
・リスクの洗い出し(想定されるリスクを一通り出す)
・個々のリスクへの評価(想定される被害と、発生しうる頻度・確度により重み付けをする)
・重要なリスクから順番に対策をとる
通常、企業においては一定のリスク管理を行っているでしょうから、自動化を行うことによる追加のリスクのみここでは考慮することにします。
その上で、よく検討しなければならないのは次の項目になります。
1)コンピューターが行う作業のウェイトが大きくなることによる、ハードウェア・ソフトウェアの不調により業務が止まるリスクの増大
2)コンピューターが想定外の動作をすることのリスク
3)自動化ソフトウェアの設定ができる人材が退職する、あるいは事故などで作業ができなくなることにより、修正不能となるリスク
1)については、たとえば、自動化ソフトを(アクティベーションしていない状態で)インストールのみ行い、自動化のための設定ファイルは最新のものがコピーされている状態のPC(ハードウェア)を1台用意しておき、トラブルが発生したら、ライセンスのみ移行して即座に移行できるようにする、等の対策が考えられます。それでも一定の時間がかかりますし、ライセンス的に問題が無いかどうかも含めて、事前にソフトウェアのメーカーに確認しておくことで、リスクの評価の補助になるでしょう。
2)の対策は、クリティカルな分野(金銭や個人情報の扱いなど)では、最終的な目視確認は人間がやる、あるいは適宜、ログ(記録)を残すようにして後から監査をしやすくする、等が考えられます。たとえばブラウザ上で使用するオンラインのサービス等や、組織全体で管理しているネットワーク・PCのアカウント等があるのなら、自動化ツールを使用するためのアカウントを用意し、自動化の実行はそのアカウントのみで行うようにすれば、自動化ソフトウェアの挙動を後から追うことが容易になるかもしれません。
3)は、なるべく複数の人間が自動化ソフトウェアを使用できるよう研修を行う、抽象的に操作をするソフトウェアを選定する、等が考えられます。また、自動化を行った業務の流れを、社内で統一したフォーマットの資料で作成することも役に立つかもしれません。但し、フォーマットの記入(資料の作成)が煩雑になると、どうしても放置されてしまうリスクが出てくるため、これは必要最小限に留めるべきです。そもそも、効率化のための自動化であるのに、それを実践するために多くの不効率が発生するのは、本末転倒でしかありません。
少し別の観点というか、指標として。
リスクマネージメントについて定めたJIS Q 31000:2010では、リスクマネージメントのあり方として、次のような原則が掲げられています。
・価値を創造し、保護する。
・組織のすべてのプロセスにおいて不可欠な部品である。
・意志決定の一部である。
・不確かさに明確に対処する。
・体系的かつ組織的で、時宣を得たものである。
・最も利用可能な情報に基づくものである。
・組織に合わせて作られる。
・人的および文化的要素を考慮にいれる。
・透明性があり、かつ包括的である。
・動的で、繰り返し行われ、変化に対応する。
・組織の継続的改善を促進する。
この規定は多くのことを示唆していると思います。リスクの管理をきちんとすることが1つの価値となりますし、それは組織的になされるべきです。また、硬直化してしまうことのないよう運用する必要もあるでしょう。
上記のような観点で「特定の業務に対し、自動化を行うことのリスクと、考えられる対策(およびそのコスト)」を明確化することが、自動化のアセスメントへのもう1つの柱となります。
:アセスメントの評価
アセスメントは事前に行うだけでは意味がありません。あまりに頻繁にやると作業が硬直化・遅延してしまいますが、自動化を推進する上で、想定外の問題などが出てきたら、それも加味して再度行う必要があります。
また、自動化を行ったあとに効果を測定し、「アセスメント結果とどれくらいの乖離があったか」「アセスメントの際に見落としていた問題はないか」を検討することも大切です。
いわゆる「PDCAサイクル」のPlanとCheckに該当する部分ですので、ここを疎かにしないことが、効率化を長期的に進める鍵になると思います。