システム化する際の考え方~食堂で考えてみる~

たとえばこんな、自動化の話

「自動化」がもたらすものや、それを遂行するための考え方の1つの例として。

とある個人経営の定食屋があったとします。最近、周囲にコンビニや弁当屋などができて、コストを下げないと経営が苦しくなって来ました。
さて、効率化のために店主はどうするか、という部分から。

まず、一般的な飲食店の業務を洗い出してみます。

  • 毎日の業務
    • 材料の仕入れ
    • 下ごしらえ等、開店準備
    • 清掃(開店前・閉店後)
    • 客が来たら注文をとる
    • 調理
    • できた料理を運ぶ
    • 会計
    • 皿洗い(調理器具含む)
    • 現金のチェック(開店前・閉店後)
  • 月ごとの業務
    • 収支の計算
    • 従業員への給料支払い
    • 従業員のシフト調節
  • 数ヶ月~1年スパンで発生する業務
    • メニューの更新
    • 税処理(確定申告や消費税の中間納付など)
    • 設備点検や安全講習等、飲食店の営業許可の更新など

この中でコストを削減するために、「ルーチン作業の自動化」という観点で考えてみます。
たとえば清掃や調理は、ある種の定型業務ではありますが、それを自動化するためには専用の装置が必要ですし、完全な自動化のためには多大なコストがかかります。同一仕様の機器を開発して、全店一斉に導入できるチェーン店のような規模なら兎も角、個人経営では難しいでしょう。

さて、最初に考えたのは、上記の中で、当然のごとく1日の発生回数が多い、注文と会計の効率化でした。現在は紙の伝票に記載して、それをレジで打って勘定をしていますが、それをタブレットで代用すれば、レジの端末と連携させることで計算を効率化できます。
また、従業員のシフト調節と給料の支払いを、オンラインの人事管理システムを導入することで自動化し、計算の手間を省ける、とも考えました。

ここまでが「従来の業務フローを変更しない、個々のプロセスに対する改善」です。

しかし、最初に立ち返って考えてみます。そもそもの目的は「コストの削減」であって、別に現在の業務プロセスを堅守する理由はありません。
(もちろん、コストの削減と称して、設備点検などを行わない等の行為は許されるわけではないので、絶対に残さなければならない業務もありますが)

ここで、業務フローそのものを変更することを視野にいれるとどうなるでしょうか。

 

初期投資はかかりますが

大手の牛丼チェーンや、定食屋などでも導入されていますが、飲食店での「食券を自動販売機で発券する」システムを導入するとどうなるでしょうか。
毎日の業務のうち、以下の業務は大幅に時間が短縮できたり、そもそも発生しなくなります。

  • 注文をとる(食券を受け取るだけなので時間削減)
  • 会計(基本的に不要になる)
  • 現金のチェック(自動販売機の記録と照合するだけなので簡略化)

そこで店主は、これらの作業にかかっている時間を測定してみることにしました。

  • 注文 客1人あたり平均45秒×120人=90分
  • 会計 客1人あたり平均1分×120人=120分
  • 現金のチェック 毎日10分ほど ×2回 =20分

これらを自動化した場合の見積もりは、

  • 注文 平均15秒に短縮 ×120人 =30分
  • 会計 完全に削減
  • 現金のチェック 毎日5分に短縮、開店時のみ =5分

となり、合計で約200分(≒3時間強)の労働時間が短縮できることになります。当初は空いた時間は「何もしない」待ち時間になるので、必ずしもその通りにはなりませんが、少なくとも「それなりに」効果が考えられます。
最大値で考えれば、ホールで働く人の雇用コスト(時給+保険等の費用)を時給換算で1,600円とすると、1日あたり5,000円、1ヶ月では150,000円ほどのコスト削減が見込めるわけです。実際には前述のように即座に軽減できるわけではありませんが、それでも徐々に調節すれば相応のコスト減が見込めます。

そして、店のメニューの種類などから最適な自動販売機の値段を確認したところ、価格が約150万円、月の維持費が5,000円ほど、耐用期間は短く見積もって5年程度と想定されました。
単純に5年かけてペイすることを考えると、1ヶ月12,500円+維持費の5,000円の17,500円がコストになります。つまり、この定食屋において、食券自動販売機の導入は、それだけでコスト削減・効率化に繋がる可能性が高い、と想定できることになります。

 

できるところまでやってみる

更に掘り下げて考えます。たとえば券売機と、厨房においたディスプレイを連動させることで、厨房では「どのような注文があったか」を事前に把握し、準備を開始することができます。これは調理時間そのものの短縮には直結しませんが、料理の提供時間を短くすることや、ミスオーダーを減らすことで客の満足度を上げることができます。

また、注文数の記録も常にとられることになります。基本的には調理で消費する材料は、その日に受けた注文量に比例します。これは何を意味するかというと、どの料理が注文されたかの可視化が容易になったり、翌日以降の食材を発注する際の補助になります。

ここで、パソコンによる自動化も考慮にいれます。たとえば年間ライセンス費用が100万円の自動化ソフトを導入し、フリーの個人事業主エンジニアに年額150万円で管理してもらうとします。年間250万円のコスト増加です。では、それにより自動化できる業務がどれくらいあるでしょうか。

  • シフトの希望を入力してもらったデータから表を作り、不足分・過剰分のリストを自動生成する
  • タイムレコーダーと連動し、シフトの達成率を確認しつつ、実稼働時間を計算する
  • 会計ソフトにそれらを入力し、給料支払いをオンラインバンキングで行ったり、各種手続きのデータを社労士にメールで送る
  • 税処理などのデータを会計ソフトから出力させる
  • オンラインで発注を受け付けてくれる食材は、消費量にあわせて発注を自動化する
  • 1週間ごとにメニューの注文状況をExcelでグラフ化し、利益率とあわせて良し悪しを再検討する資料にする

これくらいまでは、上記の金額でも、きちんと自動化ソフトを使いこなせるエンジニアであれば、半月程度で仕上げて、その後、年に数回程度の保守をしてもらうことは現実的に可能でしょう。エンジニア側からしても決して悪くない案件のはずです。

一方、これらによって店側は、管理者の勤務時間を月間あたり40時間(雇用コストで時給3,000円として120,000円)削減し、更にメニューの見直しを短期間で効率的に行えば、月に200,000円程度の利益が出ると判断しました。年間の利益に換算すると240万円なので、コストのほうが若干高いですが、従業員の残業などが減る分、人員の定着率・安定稼働に繋がることを視野にいれれば、決して悪い選択ではないと考えられました。

 

実施してみて見えること

さて、上記のプランを実行し、1年後に振り返ってみたら、何が見えてくるでしょうか。

たとえば「常連の客が券売機に慣れた分、更に注文の時間が減る」かもしれません。
「ミスオーダーが減った分、客が増えて、採算性が上がる」とか、「ホールのアルバイトに要求される作業が減り、最長でも2~3年で辞めることの多い学生アルバイトでも安定して仕事をこなせるようになった」等も考えられます。
逆に、当初想定していなかったデメリットとして、「券売機やパソコンの故障トラブルで、業務が滞った日があり、損失が出た」とか、「潜在的に、機械に苦手感を感じていた一部の常連が、券売機に馴染めず離れてしまった」といった事態も考えられます。

最終的にそれがプラスになるかどうかはケースバイケースです。絶対の成功や、安定した勝ちの戦略などは存在しません。
ですので、上記のたとえ話も「成功した」とも「失敗した」とも、ここには書かないでおきます。

でも、1つ言えることとして。
上記のような「業務プロセスの変更を含む効率化や、その補助ツールとしての機械・自動化の導入」といった手法は、労働時間の削減や、新しい価値の創造に寄与しうるということは、はっきり見えてくると思います。
(あえてネガティブなことを繰り返しますが、その「コスト削減や新しい価値」に「導入コストとリスク」が見合うかどうかはケースバイケースなので、きちんとしたプラニングやアセスメントは必須です)

既に、大企業では多かれ少なかれ、上記のような「業務プロセスを含めたスリム化・効率化による収益性の向上」をはじめています。

中小零細企業だから、今は安定しているから、と安心していては、あっさり飲み込まれてしまうかもしれませんよ?

 

 

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